マーケットは絶えず変化し続け、常に一定の形状にはならない。私たちトレーダーは、現在のマーケットの状況に応じて組み込むポジション比率などは柔軟に組み変えていくべきだろう。
これはサーフィンのようなもので、同じ形の波は二度と来ないけれども、波の乗り方をきちんと身に付けることができれば、どんな形の波が来ても応用を効かせて乗ることができるようになることと本質は同じことである。
世間一般の認識として、「ペアトレードなどの両建売買は、マーケットに対してニュートラルポジションを組むため、安心・安全な投資方法である」と言われている。
たしかに、これは理論的には正しいかもしれないが、実践ではこの考え方はたぶん必ずしも正解ではないだろう(詳しくは、【相関係数の弱点とβ値の重要性】参照のこと)。ここまでの銘柄選択の項目ではそのようなニュアンスで書いてきたが、あくまでも純粋理論であることに注意してほしい。
上の図は最小二乗法による回帰直線からの誤差dを表したものである。回帰直線(y=ax+b)は全ての標本データの平均を通るため、回帰直線からの誤差dが大きくなるほどポートフォリオの最適化がなされていないことを意味し、反対に誤差dが小さくなるほどポートフォリオの最適化がなされていることを意味している。
銘柄ペアを複数に分散させることにより、個々のペア銘柄が持つ互いの誤差dを相殺し合うため、合成された誤差dは回帰直線に近づき、ポートフォリオの最適化を実現することが可能となる。すなわち、調整後の合成誤差dは決定係数(r2)の値が大きいほど最適化がなされることになるため、1.0が最も理想的な最適化となる。
もっとも、これは理論上の話(オーバーフィッティング)である。自然科学の世界とは異なり、社会科学の世界では利害関係等のバイアスがかかるため実現不可能である。
誤差r2調整後 誤差r2調整後
↓ ↓
合成誤差r2 合成誤差r2
以上により、ポートフォリオの最適化を行うメリットは、互いの誤差dを相殺し、マーケットの変動リスクを制御しつつも、利益を実現できる点にあるといえるだろう。
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ここでサッカーを例にポートフォリオの本質を考えてみたい。
出典:Wikipedia「Midfielder」
サッカーは、「フォワード(FW:攻撃)」・「ミッドフィールダー(MF:攻撃・防御)」・「ディフェンス(DF:防御)」と「ゴールキーパー(GK:防御)」の属性を持つプレーヤーの合計11人同士で競い合うゲームである。
このプレーヤーの属性もそれぞれの果たす役割分担がしっかりしており、ポートフォリオの役割を果たしていることがおわかりいただけると思う。
サッカーは、―他のゲームもそうであるが―、対戦する相手チームによって戦略の組み方が異なっている。たとえば、攻撃力が強いチームと対戦する時は保守的に守りを重点的に固めながら、相手のスキを伺いつつ、カウンター攻撃を狙う戦略を採ることになる(例:プレーヤー全体のベンチマーク線=基準線の位置はハーフラインよりも相対的に自分チームのゴール側に近くする)。
出典:「CYPF」
これとは逆に、攻撃力が弱いチームと対戦する時には守りを固めながらも、積極的に攻撃を仕掛けて行く戦略を採ることになる(例:プレーヤー全体のベンチマーク線=基準線の位置はハーフラインよりも相対的に相手チームのゴール側に近くする)。
出典:「CYPF」
もっとも、11人全員で一斉に相手側ゴールに向かって攻撃を仕掛けてもいいのだが、相手にボールを奪われてカウンター攻撃(迎撃)を喰らってしまうと、ゴールを守るプレイヤーが誰もいなくなってしまう。
個人的には観戦してみたい気もするが、ポートフォリオの考え方を完全に無視した采配であり、偶然の発生確率に依存したハイリスクな賭けとなり、合理的な選択とは言えないだろう。
以上のことから、ペアトレードにおけるポートフォリオは、なるべく「ベンチマーク=平均値」に近似するように設計するのが最も理想的である、と考えられる。
※ペアトレードは基本的に1対1の銘柄ペアを組み合わせた戦略であるのに対して、ロング・ショート戦略はマーケットの強弱に合わせてロングとショートの比率を調整するため、より裁量トレードに近い戦略と言える。
サッカーの「フォワード」と「ディフェンス」、ペアトレードの「ロングポジション」と「ショートポジション」。一見すると、姿・形は違うけれども、ポートフォリオの観点から見れば、どの組み合わせも自分の弱点を相互に補完し合っていることがおわかりいただけると思う。
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